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その日の夜

Auteur: suzuki
last update Date de publication: 2025-06-06 15:19:00

 テイワズが眠ってから、食事をした部屋の明かりが再び灯った。

 ヘルフィが指先から炎を出し蝋燭に火をつける。その後ろから部屋に入った三人は、部屋の中の椅子にそれぞれ座る。

「ティーももう寝たみたいですね」

 眼鏡を持ち上げて、ロタが言った。

「ロタ兄さん、覗いたのー?」

「あなたみたいに勝手に部屋に入るわけないでしょう。部屋の前で耳を澄ませただけですよ」

 はいはーいと雑に返事をしたルフトクスに、ロタは言葉を続ける。

「しかしルフもしばらく学校を休んで平気なんですか? フォルはともかく」

「なんでフォルはともかくなのさあー」

「僕ほどの優等生は大丈夫に決まってるからですよ」

 ヘルティと同じように、指先から灯した火で燭台に灯りをつけてからフォルティが椅子に座った。

 フォルティは飛び級が認めているほど魔力が優れているという点だけでなく、真面目な態度により教師から好感度が高い。ルフトクスは成績はいいが、学校では寝ていることが多く、教師からは微妙に距離を取られていた。

「はいはい。ティーに辛いこと思い出させないように遊びに連れて行く作戦を決行したら戻りますよー」

 ルフトクスもフォルティ
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  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   私の居場所-5

    *「ティーが襲われただあ!?」 家に着き、テイワズが話さなかった出来事を家族に伝えた御者の首をロタが掴んだ。「何やってたんだ!」「おいやめろ」 苦しい表情で謝る御者の首を掴むロタの肩を、ヘルフィが乱暴に抑えて離す。 その勢いに眼鏡が落ちて、ルフトクスが拾った。「んー、どうしてそうなったわけ?」 ルフトクスから受け取った眼鏡をロタがかけなおす後から、フォルティが現れる。「ええ。一体どうして……なんでそうなったか気になりますね」「あ、それは……」 テイワズの説明よりも、御者の申開きが先だと、兄四人は御者を問いただす。 銀。黒。茶。紫。四つの髪の色は並ぶと壮観だ。 赤。青。金。そして赤。三色の八つの瞳は強い光だろう。 突然のことだったと、御者は改めて状況を説明した。一通り聞いてから、ルフトクスが唸る。「うーん、どうしてティーが狙われたんだろうね」「世界一可愛いからに決まってるでしょう」 答えたのはフォルティだ。「それはまあ、そうなんだけど」 ルフトクスが頷いて。「あなたたち、ふざけないでください。──まあ、間違ってないですけどね」 ロタも諭しながら頷いた。「あはは……」 まあいつものことだ──今まで通りのことだと兄たちの様子に苦笑する。「物盗りでしょうか……いや、金品目的としてもティーは本しか持ってなかったわけでしょう?」「おれたちに恨みがあったとかー?」「無差別なのか、そうじゃないかすらわかりませんからね……」 ロタ、ルフトクス、フォルティが顔を合わせて唸り合う。「僕ががずっと傍についてるべきでしたね……」「おれとのーんびり過ごしてればよかったねぇ」「自分がいればそんなこと許しませんでした」 兄三人の吐く重たい息と言葉が重なった。(私の名前が呼ばれたと──言うべきなのか) その横で、テイワズはこっそりとヘルフィを見た。(なぜ知られたのかはわからないけれど──狙われたのは私……私の力。それ以外に理由がない) ヘルフィと目が合った。頷いたわけではないけれど、お互いわかり合ってることが、視線だけでわかった。(風の力が狙われたと思うのね) ヘルフィが三人に視線を戻した。「……とにかくだ、俺様たちの妹が狙われたのは間違いねぇ」 三男がヘルフィに視線を渡した。「今後もあるかもしれねぇ。……俺様がしばら

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    「ティー。今日も図書館行くのー?」 ふわ、とあくびをしたルフトクスに釣られそうだった。うん、と頷くとロタが眼鏡を押し上げた。「図書館ですか。いいですね」「僕も行きましょうか?」 フォルティがテイワズに聞くと「あー、抜け駆けー」とルフトクスが指差して、下の兄二人の会話が始まる。 それを横目にロタがテイワズに紅茶のおかわりを淹れる。「図書館であれば女性一人でも安心ですしね、変な輩もいないしいいでしょう」 そうですね、とテイワズが頷いたところで、眠そうな顔をしたヘルフィが入ってきた。「おー……」 後ろ手で髪をかくヘルフィに四人はそれぞれ朝の挨拶をする。「ヘルフィ、早く支度してください」 ロタが紅茶を渡して言うと、おう、と返事を一つ。それから砂糖を入れながらテイワズに言った。「あんま出かけんじゃねぇぞ」「え? なにー、兄さんったら過保護ー」 からかったのはルフトクスだ。「一体どうしちゃったのー? 急にそんなこと言うなんて」「……別に急でもねぇだろ」 うっせぇなあ、と言わんばかりの顔に、はいはいとルフトクスが流した。 誰も飲めないほど甘ったるい紅茶を飲むヘルフィにテイワズは笑いかける。「大丈夫ですよ。図書館には親切な方しかいませんから」 今日、赤い髪の男性に会ったらお礼を言おう。 そう決めて、兄たちを見送って、テイワズは昨日借りた本を持って図書館に向かった。「やあ。昨日の本はどうだった?」 かけられた声に驚いて、危うく本を落としそうになった。「昨日の」 赤髪の男性だった。紫色の瞳を人が良さそうに細めて、相変わらず控えめだが質の良さそうな服を着ている。「ありがとうございました。おっしゃる通りでした」 テイワズは微笑みながら答える。「ああよかった」 丁寧な物腰と言葉遣いに、ある程度立場のある人なんだろうな、とテイワズは推測する。「珍しいね。魔術の古にまつわる本を読むなんて──外に出てみるものだ。同じ物好きに会えるなんてね」 物好きなんてひとまとめにされた。 言葉に引っかかるものがあるとはいえ余計なことは言うまい。テイワズは薄く笑う。「もし他にも気になった本があったら言ってよ。話ができると嬉しいんだ」「ありがとうございます」 言葉はそれだけに留めた。社交辞令だろうし、社交の付き合いは今は控えたい気分だ。 淑女

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    (そうして人々は自然の力の下に繁栄した。日々の糧を喜びとし日常を営んだ……) 本を閉じて、ふう、とテイワズは息を吐く。 あれからフォルティに教えてもらい、本をスラスラ読むことができた。 頻出するその言葉に、フォルティが首を傾げていた。「火、水、大地……それぞれの魔術の要素、力のことをまとめて自然の力と読んでるんでしょうか?」 自然の力。すべてを統べる力。「自然の力ですべてを治め……って、ことはまさか、三大要素をすべて持っているっていうことですかね……?」 ううむ、と唸ったフォルティはテイワズよりも深く思案しているようだった。「自然の力を持つ王が統治する世は太平な世として栄えていった……と、ふーむ」 こっちの方がわかりやすいですね、とフォルティが叩いたのは赤髪の男性に勧められた方の本だった。「しかし、なんで建国にまつわる古代の話や魔術の創生の本なんて読んでるんです?」「ちょ、ちょっと興味があって……」「ふうん。そうなんですか」 テイワズの言葉に、フォルティは引っかかった様子もなく頷いた。「あの一緒に観に行った劇もそうでしたが、やっぱりこういった不作の年はみんな明るい夢のある話が読みたくなるんですね」 ──そう、治安のよかったこの街で、しばしば物盗りが起こるようになったのはひとえに不作のせいだった。 天候不順による不作。人々はそれを王のせいにした。 領主が魔術を使うことにより、大雨時にも災害を防ぎ、害虫の発生も延焼させ対策し、地崩れも塞ぐことができるが──全ての作物を守れるには至らない。 日照りや豪雨は防げない。 大地の力は枯れた草木を甦らせるには至らない。 周りに天才と呼ばれ魔術の能力の高いルフトクスの大地の力でさえ、花一輪咲かせるのが精一杯。本来草木の成長までは操ることができない。 同じ大地の魔術を使うエイルでさえ、それをできない。とはいえエイルは地を揺らし割ることができ──破壊力という面では兄弟一番であった。「一人で複数の魔術要素を持つとか、第四の元素があったとか……」 フォルティは読んだ本を撫で、観た劇を思い出し、テイワズに呟いた。「人は夢を見るのが好きですね」 フォルティとの会話はそれで終わり、戻ってきた兄たちと食事をして寝支度を整え、そして寝室で一人で過ごす今に至る。 そうだ、夢みたいなできごとだった。目

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  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   私の居場所-1

     公の場での婚約破棄。 それは顔に泥を塗る行為で、顔を上げられなくなるなどの屈辱だ。 あの場でテイワズがダグ・ブランドスに言われた言葉は、社交界でのテイワズの看板に泥を塗った行為だ。 きっと以後、テイワズに婚約を持ちかける話は来ない。 来たとしてそれは、ブランドス家の豊かな経済状況計算と兄たちの魔術能力を求めるという打算でなければ、よほどの物好きぐらいだ。 女性として磨くための手習を。 貴族として繋がるためのサロンを。 今まで行っていた社交界に繋がるその場所に、もうテイワズは行けない。 もとより女性のそれはすべてより良い婚姻のためで。それは今となっては──。 (来ないでと言われたわけではないけれど) 楽器の演奏だったり、刺繍の手習だったり。詩を学ぶサロンだったり。(言っても、指を指されるだけだ) 貴族のコミュニティは広い。 それでも、せめて内密に婚約破棄を伝えてくれれば話は違った。周囲に聞かれても、ああ家の事情で、なんて濁して流せばいい。 それをしなかったダグは、よほど新しい婚姻を自慢したかったのだろう。なんてったってお姫様だ。 よほど今までの婚約が不服だったのだろう。魔術要素なしの貴族の娘との婚約が。 テイワズは部屋のベッドの中で思い返す。(お姫様の方から、って言ってた) だからきっと、しょうがない。オスカリウス家も豊かな侯爵家だが、あまりにも立場が違う。 明日からどうやって過ごそう。(……なんて) 途方に暮れることは──ない。(調べなきゃいけない。私は私のことを) 一人で行動できることはむしろ都合が良かった。 ここ数日立場的にも一人になったテイワズを構っていた兄たちは、明日からは皆通常通り仕事や学校に行くようだ。「紳士協定を結びました! ティーから声をかけられない限り誘わない連れ出さない!」 と暴露したのはフォルティだ。「こぉら、秘密だって言ったでしょー」「誰のせいでそうなったと思うんですか」 フォルティに口を尖らせたルフトクスを、ロタが眼鏡の奥の瞳で睨んだ。ルフトクスがヘルフィに視線を送る。「兄さん激おこだったもんねー」「……テメェらが盛るからだろ。ばーっか」 相変わらず口が悪い。その口調で、リーダーシップで、テイワズが家を出てる間に話し決めたのだろう。「ま、だから安心してねぇ? 今度は許可

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   真昼の帰宅

    「ティー! お帰りなさい!」 馬車が止まるとすぐに、家の中から駆け出してきたのはフォルティだった。「心配しましたよ!」 紫の髪をなびかせて走り寄ると、馬車から降りたばかりのテイワズの両手を取った。 赤い目はヘルフィと同じ色なのに、形が違う。 優しげに弧を描いた赤い目。 フォルティに掴まれたテイワズの手の上に、骨ばった細い指の手が触れた。「ほら、離しなさい。ティーが驚いていますよ」 ロタだった。二人の手に重なるように自分の手を置いた。黒髪が日差しに青く透ける。 そしてその後ろから、少しのんびりとした口調がかけられた。ルフトクスだ。「そうだよー、フォルったらー」「兄様のせいでしょう!」 振り返ってフォルティの手が離された。 一拍遅れて、一秒。青い目に笑みを残してロタも手を離した。 後ろから現れた茶髪が柔らかく揺れて、金色の目が細められる。「待ってたよ、ティー」「ルフお兄様」 呼べばまるで許されたように歩み寄ってきた。 余計な言葉はお互いなかった。「ただいま」「おかえり」 心地の良い風だった。陽の光は温かく、四人の兄は一様に微笑んでいた。「さ、紅茶を淹れましょうか」 ロタの言葉に頷いて、家に入った。 たった二晩。されど長い夜をいくつも越えて、旅を終えたような感慨があった。 ロタが先頭を歩いて、ルフトクスとフォルティが並んで歩く。その後ろをティーはついていき、一番最後にヘルフィが歩いている。 靴音がいくつも響いて、いつも食事をする部屋に入った。 兄たちは椅子にテイワズを座らせると、まるでもてなすようにキッチンに立った。 一人座るテイワズの隣に、ヘルフィが音を立てて座った。「なんで兄さんまで座るわけー?」「うるせぇ」 まあいいけど、とルフトクスが言って、そんなルフトクスに向かって、紅茶を取ってくださいとフォルティが言った。「お待たせしました」 青と赤の目の前で、ロタが紅茶を注いでくれる。 やはり蒸らし時間は少し少ない。茶葉と一緒に入られたシナモンの味わいは少なかったけれど、砂糖をたっぷりと入れたヘルフィには関係なさそうだった。

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